2024年の市制100周年に向けて、川崎のブランドメッセージである「Colors,Future!いろいろって、未来。」のもと、行政・市民・企業・団体等が共に新しい川崎を考えていく
まちづくりイベント『Colors,Future!Summit 2023』を開催。カンファレンス2日目の最初は、「まちづくり」に焦点を当てたセッションを行いました。
林厚見
(株式会社スピーク共同代表)
株式会社スピーク共同代表 /「東京R不動産」ディレクター。不動産セレクトサイト「東京R不動産」や、空間編集のウェブショップ「toolbox」のマネジメントの他、建築・不動産・地域の再生/開発プロデュース、宿泊施設・飲食店・イベントスペースの運営等に従事。東京大学・早稲田大学にて非常勤講師、東京都築地市場PT専門委員、グッドデザイン賞審査委員などを歴任。
吉岡明治
(ホテル縁道 総支配人)
株式会社リットアップ代表取締役 東海道川崎宿ホテル縁道 総支配人。藤田観光株式会社、UDS株式会社にてホテルの現場、全国各地でホテルの開発や再生、運営コンサルティングを経験。2015年にオンザマークス川崎の開発から開業後の運営、総支配人。2019年に独立し2020年開業のホテル縁道の開発プロデュース・開業後の運営。川崎の地域の魅力を世界に発信して観光を盛り上げたいという想いで活動中。
沖山浩二
(川崎市まちづくり局 市街地整備部 地域整備推進課長)
日本大学理工学部建築学科を卒業後、民間不動産会社を経て、平成11年に川崎市役所に入庁。市役所では、まちづくり局にて市街地再開発事業や企画業務、建築確認申請業務などを担当する期間が長く、近年では、リノベーションスクール川崎や公園道路等の公共空間の活用する取組なども実施。
和泉直人
(bonvoyage株式会社 代表取締役)
海外にてアパレル・空間デザインを学び、帰国後は不動産会社・住宅設計・まちづくり系企業を経て独立。建築や不動産領域を横断して「豊かな場つくり」をプロデュースする。その対象は商業ビル・レジデンス・マチナカなど様々であり、新築やリノベーションは問わない。
ー『Colors,Future!Summit 2023』2日目。最初のセッションのテーマは「まちのハードづくりからソフトづくりへ」。モデレーターを務める林さんの進行のもと、まずはそれぞれの取り組みについての紹介からセッションがスタートしました。
林:
このセッションでは、登壇者のみなさんから軽く自己紹介をしていただきつつ、それぞれの視点からまちづくりについて議論できればと思います。それでは、トップバッターを和泉さんに務めていただきましょう。
和泉:
今日はよろしくお願いします。建築系のプロデュースを手がける会社を運営している和泉と申します。このセッションの皮切りとして、弊社が企画・運営を手がけて、今年の11月5日に開催した「みんなの川崎祭」の様子についてご紹介させてください。このイベントの目的は、川崎市制100周年に向けて、市民の方々により川崎を好きになっていただくこと。ただ、好きになると言葉で言うのは簡単ですが、川崎にはすでに面白いコンテンツが溢れています。そこで、何か新しいものを無理やり生み出すのではなく、すでにある面白いものを編集して多くの皆さんに届けることで、より好きになっていただくことを目指しました。そこで、フード・アート・ミュージック・スポーツをカオス的にごちゃ混ぜにしてストリート上に展開しました。性別や国籍、障害の有無、そうした属性など関係なく、みんなが一つになって楽しめることを意識して企画した結果、本当にたくさんの笑顔を見ることができました。
林:
素敵な取り組みですね。こんなに素敵な風景がどんどん展開されるようになったのかと驚きましたし、正直、自分の中での川崎のイメージががらりと変わりました。こうした取り組みはここ5年ほどで急速に進んできていると思うのですが、行政側として携わってきた沖山さんのお話を聞かせてください。
沖山:
市役所のまちづくり局の沖山と申します。和泉さんのお話にもあったとおり、川崎は色々な取り組みを行っておりまして、私は10年ほど公共空間の活用に関わってきました。私からは、川崎のまちづくりの背景とこれまでの取り組みについてお話できればと思います。行政では2016年に「リノベまちづくりビジョン」を打ち立て、川崎駅周辺の再開発に力を入れてきました。このビジョンの特徴は、民間による遊休不動産の活用といった「小さなリノベーションまちづくり」と、地図上で確認できるような公共空間を活用した「大きなイノベーションまちづくり」を掛け合わせていこうという点。どちらか片方ではなく、両方に力を入れることで、効果が倍増するのではないかと考えました。このビジョンにもとづき、民間企業と協働し、公園や多摩川、競馬場や駅前広場、行政財産の活用などを進めてきました。こうした取り組みを10年続けてきた中で感じたのは、公共空間を提供する側と、利用する側にかなり相違があるなということ。その原因は、利用する側がどのような欲求を抱いているのかが見えずらくなってしまっているからではないかと考えました。そこで今日、皆さんのお話を聞きながら、どんな欲求をどう探して、どう落とし込むかを考えてみたいと思います。
林:
最後のお話にもあったとおり、まちづくりを考える上で人々の欲求実現がカギになってくる気がします。後ほどその点についても意見交換できればと思いますが、その前に、街との関わり方について吉岡さんからもお話をいただけますでしょうか。
吉岡:
ホテル縁道の運営をしている吉岡と申します。私からは、縁道の運営について話しつつ、和泉さん、沖山さんのお話に少しつながりをもたせながら自己紹介できればと思います。ホテル縁道は川崎の本庁舎の目の前にあるホテルでして、このあたりが旧東海道から神社に向かう参道だったという歴史的背景にもとづき、さまざまなご縁を生んできた場所という点から「縁道」という名前がついています。元々川崎の行政財産だったことや、市役所の目の前に位置するホテルであることを踏まえて、地域の方や観光客の方々の賑わいの場として機能させることに力を注いでいます。これまで、寄席やマルシェ、ダンスのパフォーマンスなどを開催してきました。
林:
宿泊施設としてだけでなく、新たな取り組みを次々に実施して、地域の方々と一緒に盛り上げている様子が素晴らしいですね。
ーそれぞれの取り組みを共有した上で、次は川崎のまちづくりの現状とこれからについて議論することに。
林:
公共空間の有効活用は、国内外を問わずトレンドになってきていますが、その流れの中で川崎はどのような位置付けに当たると思いますか?
沖山:
遅れているとか、衰退しているとは思いませんね。むしろ、年々前向きに協力してくださる方が増えてきているなと感じます。それも、一部だけでなく川崎中で。10年前は街が衰退してしまう可能性も考えていたのですが、まったくの杞憂でした。おそらく、行政職員の皆さんも街を元気にしていこうという機運に溢れているのだと思います。
和泉:
そうですね。一方で、それが市民の方々に伝わっているかというと難しいなと思います。先ほど「川崎祭」を紹介しましたが、ややもすると、多くの方々にとっては単なるイベントとして受け取られてしまっている可能性がある。大切なのは、イベントをやって終わりではなく、新しい風景を見せてきちんとフィードバックをもらい、特別なイベントから日常のイベントに変えていくことだと思います。
吉岡:
イベントの運営側ではなく出店側からすると、こうした取り組みが、川崎における横のつながりを生み出してくれていると思います。
林:
出会いのきっかけになるのは大きなメリットですよね。それが、次もまた参加する理由になるかもしれないし。だからこそ、運営・出店側ではなく、ふらりとやってきた方にとってもつながりが生まれる場にすることが大切かもしれませんね。
沖山:
そうですね。その上で川崎は寛容性があるというか、多様性に溢れていることを誰もが理解している街なので、公共空間を使った新しい企画を立てたときに、それを受け入れてくれる可能性が高いと思います。足を止めて興味を持ってくれる人もいるし、素通りする人もいる。反応は多種多様だけど、決して誰も否定しない。それに、市長をはじめとする行政組織の幹部たちも、腹を割って話せるほど親しみやすい方ばかり。そんな街だからこそ、川崎のまちづくりは今後もどんどん盛り上がっていくはずです。
ーセッションも終盤に。最後は、公共空間を利用する側の「欲求実現」について議論しつつ、まちづくりのハードとソフトの関係に注目しました。
林:
先ほど沖山さんが利用する側の「欲求」をどう引き出すかがポイントだという話をされていましたが、その点について皆さんの意見をお聞きしたいです。個人的には、日本は「欲しいものを満たす」という段階から「やりたいことが見つかる、できる」ということに欲求の形がシフトしている気がするんですよね。その上でまちづくりの場合は、行政が市民の「やりたい」を見つけ、それを後押しすることが重要になってきているのではないかと。
沖山:
同感です。実際川崎でも、誰かが「これをやりたい」といったときに、すぐに他の人が乗っかってくる流れが生まれ始めている気がします。
林:
こうした市民の「欲求」を引き出した代表例とも言えるのが、和泉さんが手がけている「CHILL」かなと思うのですが、どのような思いを持っているのか教えていただけますか?
和泉:
僕は川崎の武蔵新城のあたりにある、飲食店とアートスペースの複合施設「CHILL」のプロデュースを担当しているのですが、この施設の根本には市民の方々のリアルな「欲求」が詰まっています。この施設を作るにあたって、まずは武蔵新城の方々がどのような「欲求」を持っているのか知るために、ガソリンスタンドの跡地に浜辺のような空間をつくり、「海開きです!」と言って地域の方々を呼び込んだんです。駅前でアンケートをとったとしても、かしこまった回答しか返ってこない。だったらこっちも馬鹿になって全力で楽しめば、向こうも本音をさらけ出してくれるんじゃないかと。そんな想いで呼び込んだところ、当日は300〜400人ほど集まりまして、「子どもを預けて、自分の時間をゆっくり過ごせる場所がない」「遊びに行こうと思っても候補があまりない」など、子育て世代の方々の「欲求」がたくさん集まったんです。どうしたらこの方々が楽しめる居場所をつくれるだろうか。そう考え続けた結果、肩肘張らずに楽しめる「CHILL」という空間をつくろうと決めました。
吉岡:
観光地としてたくさんの人を呼び込むなど、目立たせることに意識が向きがちですが、「CHILL」のようなリアルな「欲求」を反映させた空間こそが、これからの時代は特に必要とされるようになると思いますね。
和泉:
「欲求」こそが、まちづくりにおけるソフトの基盤になるのだと思います。その上で強く思うのは、今日のテーマである「まちのハードづくりとソフトづくり」にも直結することですが、ハードをつくるためにソフトは必要不可欠なんですよね。私は元々ハードをつくる側だったんですが、ソフトを知らないままにまちづくりの領域に飛び込んだ結果、いかにソフトが大切なのか思い知りました。ソフトの基盤となる市民の方々の欲求を知り、それをハードに反映する。このフローに則って進めることが重要なのだと気づきました。
林:
ハードソフトで分けて考える時代はもう終わったとも言えるかもしれませんね。
和泉:
そうですね。まちづくりをする上では、どちらの視点も掛け合わせることが大切だと思います。
沖山:
目指すべきまちづくりのあり方は今後も変わり続けるとは思いますが、それでも考え続けていきたいですね。今日の皆さんのご意見をもとに、まちづくりに関わる者としてこれからも挑戦し続けたいですし、失敗したとしても、おもしろいことを追求していきたいと思いました。